11/25(月)・12/2(月) 笹島 【レビュー】 島村直己等(2006) 「作文の語彙―男女差に注目して」
今回の発表は、一週目に計量言語学についての説明、二週目に島村直己等(2006)「作文の語彙―男女差に注目して―」に基づき
卒業文集における語彙の男女差を計量分析し、結果を報告するという形式をとらせていただきました。
まず、計量語彙論とは、「語彙の構造的特色を統計的方法で追及することを主目的」とした分野のことです。
一般に「語彙の構造」と聞くと、語彙の質的構造(意味的構造)を想像しますが、計量語彙論では統計的な方法で
その構造を追及するため、語彙の量的構造を追及する点に特徴があります。
また、計量分析の結果を述べる際に用いられる用語としては、主に以下二つが挙げられます。
①異なり語数…違う単語の種類を数えたときの単語の総数
②延べ語数…個々の自立語が同じ単語かどうかにかかわらず、どの単語も同じように一つ二つと数えたときの単語の総数
次に島村直己等(2006)の内容及び問題点を説明をしますと、
<内容>児童・生徒の言語発達研究に新たに男女差という知見を加えることを目的とした研究で、
1都3県のうち語彙調査の終了している滋賀県の小中学生の作文(あらかじめ決められた課題に沿って書かせたもの)データを用いて計量分析している。
全体・男子・女子それぞれの数値結果に基づいた考察では、以下点が挙げられていた。
①男子よりも女子のほうが異なり語数に比べ延べ語数が多いものの、差異よりも共通性に目がつく
②全体・男子・女子に共通して、小学3年生から小学4年生になるときに、異なり語数・延べ語数の低下現象が見られる
③内言と語数の低下現象に関係性があるのではないか
<問題点>
・数値結果が異なり語数・延べ語数ともに、平均値ではなく個々人のデータを加算した総数であること。
・調査対象の作文本数の学年と男女にばらつきがあること。
・学年の差について結論を述べており、男女差について述べられていないこと。
ということでした。
以上の問題点を踏まえ、以下3点を改善した分析を行い結果及び考察を発表しました。
①個々人の異なり語数・延べ語数の値と平均値を数値結果として提示する。
②作文本数を男女で揃え、できるかぎり文数も基準数の±1になるよう抽出する。
③男女差に注目するために、小学6年生のみを対象とする。
結果は男子の方が女子よりも異なり語数・延べ語数ともに平均値が高いという結果でした。
しかし、各品詞に注目すると形容動詞と連体詞の値のみ女子の方が平均値が高くなるという、数値の逆転もありました。
これらの数値や男女のttr(異なり語数を延べ語数で割った値。語彙の多様性の尺度として用いられるもの。)
からも、男子は時系列に沿って書いていくために文同士のつながりが弱いのに対し、女子は文と文のつながりを意識して書いていることが考えられました。
初めて計量分析を行うにあたり、単語認定(自立語のみを認定するのか、各単語が認定した品詞のどれに当てはまるのか)を定めることが難しく、
数値結果の誤差も指摘を受けました。計量の方法だけではなく、各品詞の定義や現在どのように品詞が扱われているのかも勉強していきたいです。
また、今回の数値結果では、語彙だけでなく文章形態にも男女差があることが分かりました。
作文を書く際の児童・生徒の書き始めの様子との関係や、大人の文章における語彙との違いから、児童・生徒の作文教育で教えるべきことを見出すなど、
自分の興味のある分野においても計量語彙論を用いて調査することができ、またその方向性は複数あることを改めて実感できました。
卒業論文のテーマを決定する準備段階として、計量語彙論だけではなく、品詞認定や作文教育についての知識理解を深めていき、
次回の発表につなげていきたいと思います。